私たちが用いている新共同訳聖書の「一言おっしゃってください」という翻訳は、残念ながら原典のニュアンスを十分に伝えてはいないように思われます。2018年に日本聖書協会から出版された新しい翻訳の聖書では、この箇所が「ただ、お言葉をください」となっています。この方がはるかに格調高い翻訳です。しかし、この翻訳も完全に原典のニュアンスを伝えているとは言えないでしょう。この箇所は、新約聖書のギリシャ語の原典を直訳しますと「しかし、言葉でおっしゃってください」となります。伝統ある英語の聖書であるキング・ジェームズ・バージョンが“but say in a word”と翻訳するのは、この直訳に従っています。「言葉でおっしゃってくだされば、わざわざ来て会ってくださらなくても、私の僕はいやされます」というキリストの御言葉の力への信頼が、この短い発言には込められています。これは、キリストの御言葉は全能の父なる神様のご意志の啓示であるから、「言葉で」おっしゃってくださればその言葉どおりになる、という強い確かな信仰を表しています。