そうなると、あなたの知識によって、弱い人が滅びてしまいます。その兄弟のためにもキリストが死んでくださったのです。       (一コリント8:11)

「あなたの知識」というのは「偶像というのは実は単なるモノにすぎず神ではない」という知識と「食物自体に人間を神様のもとに導いたり、神様から遠ざけたりする力があるわけではない」という知識です。これらの知識はそれ自体としては正しいのですが、その知識があることを誇って濫用し誤った主張をすることによって、教会の中の「弱い人」が偶像礼拝という罪に誘われることになります。その結果、「弱い人」は神様の裁きを受けて滅びてしまうこととなるのです。日本語の聖書ですと「その兄弟のためにもキリストが死んでくださったのです」というのは、何か付け足しの言葉のようにも聞こえます。しかし、ギリシア語の原典では、パウロは「そうなると、あなたの知識によって、弱い人が滅びてしまいます」と述べた後で、「その人のためにキリストが死んでくださった兄弟です」という強い言い方をしています。つまり、あなたが偶像の神殿で偶像を礼拝する儀式に参加し、その場でいけにえとしてささげられた肉を食べることによって、偶像礼拝の罪に誘われ神様の裁きを受けて滅びてしまう人は、「その人のためにキリストが死んでくださった兄弟です」ということなのです。この言葉には、「その人のためにキリストが死んでくださった兄弟を滅ぼしてよいのですか?!」というパウロの厳しい問いかけが込められています。
パウロは続く12節でさらに厳しい警告を発しています。「このようにあなたがたが、兄弟たちに対して罪を犯し、彼らの弱い良心を傷つけるのは、キリストに対して罪を犯すことなのです。」パウロは、キリストを信じる信仰共同体に属する兄弟たちを偶像礼拝へと誘うことは、兄弟たちに対する罪であると断じます。偶像礼拝は「あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない」という十戒の第一番目の戒めと「あなたはいかなる偶像も造ってはならない」という第二番目の戒めに反する罪です。その罪を犯すように兄弟たちを誘うことは、まさしく兄弟たちに対する罪なのです。そればかりではなく、パウロは、兄弟たちの弱い良心を傷つけて偶像を礼拝してもかまわないのだと思わせることは、「キリストに対して罪を犯すこと」だと断じています。         (10月14日の説教より)