ルカによる福音書8:26-39
イエスが陸に上がられると、この町の者で、悪霊に取りつかれている男がやって来た。この男は長い間、衣服を身に着けず、家に住まないで墓場を住まいとしていた。 (ルカ8:27)
本日の聖書の箇所には、ガリラヤの湖の東の岸にあるゲラサ人の地において、悪霊に取りつかれていた人がイエス・キリストの力によって解放された、という話が記されています。そして、この話は、追い出された悪霊が豚の群れに入り、その豚が湖に流れ込んで溺れ死んだという点で、大変異常な話であると言うことができます。マルコによる福音書5章13節は、同じ話を記した箇所でこの豚の数が2000頭であったと報告しています。その他にも、この悪霊に取りつかれていた人の記事には、いくつかの異常なことが書かれています。それを整理すると次のようになります。第一に、悪霊に取りつかれた人が衣服を身につけず墓場をすみかとしていたこと、第二に、鎖や足かせを引きちぎるほどの異常な腕力と体力を持っていたということです。この二つの点は悪霊に取りつかれた人でなくてもあり得ることでしょう。しかし、第三に、イエス・キリストを神の子と認識して「いと高き神の子イエス、かまわないでくれ」と大声で言うことや、第四に、「レギオン」と名乗り、底なしの淵へ行けという命令を自分たちに出さないようにと願うことは、悪霊に取りつかれていることの顕著な特徴であります。
19世紀のドイツの有名な牧師であるヨハン・クリストフ・ブルームハルトは、メットリンゲンの教会で牧会していたときに、ゴットリービンという娘に取りついた悪霊と壮絶な戦いをしました。悪霊はゴットリービンの姉のカタリーナにもとりつき、カタリーナは夜中に家が壊れると思われるほどの強い絶望の叫びをあげていました。夜中の2時ごろにカタリーナの口から、「サタンとなった天使」と称するものが、人間ののどから出るとは思えないような声で、「イエスは勝利者だ。イエスは勝利者だ」と吠えるように叫びました。この叫びの後、悪霊は次第に静かになり、2年以上も悪霊に苦しめられていたゴットリービンの一家はいやされたのであります。この話は、ブルームハルトが教会の宗務局に提出した報告書に記されているものでありますから、決していかがわしい作り話のたぐいではありません。イエス・キリストを自らの敵と認識するところに、悪霊に取りつかれた人の顕著な特徴があります。
(8月28日の説教より)